ダイバーの正体に迫る本企画、23人目はpapas-oneさんです。よろしくお願いします!

papas-oneさんプロフィール

現在ダイビング歴34年のOW。経験本数は1200本。海外に出られないためダイビングは休止中だが、パラオにてボートのドリフトダイビングがメイン。東京23区在住、半分隠居の自営業。Twitterでは日常のことなどをつぶやき中。

憧れから日常へ。パラオ、海外リゾートに通った約40年

――まず、ダイビングを始めたきっかけについて教えてください。

10代の頃から海外リゾートに憧れていたんです。ダイビングのイメージはジャックマイヨールの映画の影響が大きく、きれいな海に潜りたいと思ってはじめました。かれこれ40年あまりパラオをメインで潜ってきましたが、その間のダイビングの移り変わりを経験できたのはひとつの財産だと思います。

――今回はぜひ、ダイビングを取り巻く時代の変化についても聞かせてください!はじめてのダイビングも海外リゾートだったんですか?

OW講習の学科とプール実習は都内のダイビングショップでしたが、海洋実習はサイパンでプライベートレッスンでした。生徒1人に対してインストラクターとガイドが付いていたのでサクサク進み、2日間のカリキュラムが1日で終わってしまって。2日目はいきなりファンダイビングのボートダイビングを2本経験して、講習が終わりました。追加費用もなく、これこそ殿様講習という感じでした。

――わあ、いいですね!初めて海で潜ったときはどう感じましたか?

海の中もとてもきれいだな~と感じたことを思い出します。透明度の高い南の海ならではかもしれません。ダイビングを始めて、さらに海が好きになりました。旅行で訪問国を決める際には、まずダイビングサービスがあることが必須条件になりました。

――ダイビングを始めるとついついそうなりますね。その後も頻繁に潜られたのですか?

OW講習の1か月後、サイパンに3週間ほど滞在して修行のつもりで50本くらい潜りました。サイパンでお世話になったダイビングショップは、旧名MOEというところだったんですが、山岸の兄さんが1968年に開設して、グロットのポイントを開拓したことで知られています。ちなみに、そのショップも1990年代からしばらく休業して、2008年頃に弟さんのシゲさんが再開しています。修行中はそのグロットを主に攻めていました。

――グロット、名前はよく聞きます。どんなポイントなのですか?

グロットポイントは洞窟と外洋が繋がった作りなので、光が入らず薄暗いんです。深いところにも人がやっと通れる小さな穴が数か所ありますが、水深50mと深いので今ではガイドも案内しません。また、グロットの中はあまり魚はいませんでしたね。水中へのエントリー・エクジットも特殊です。飛び石の方に飛び込みますが、飛び石へ行くまでも飛び石をまたぎます。そこへ波が来ますので、波がひいたタイミングで移動するんですよ。何が一番大変かって、グロットの洞窟に降りるための113段の階段があるんですが、フル装備まとっての帰りの道のりが厳しかったです。現地のおじさんガイドは途中で休憩していましたね。

――それは過酷ですね。グロットへ行くなら若いうちに!という話を耳にしますが納得です。

サイパンでの修行を終えてから、しばらくしてパラオと日本を往復する日々が始まりました。

ダイバー図鑑
最高のビーチだと思うカヤンゲル・ロングビーチ

――どうしてパラオへ行こうと思ったんですか?

パラオを選んだのは、世界のダイバーの憧れの国だからです。スポットの数も多いし、ポイントまでの移動時間も少なくて済みます。それからダイビングスタイルがすべてボートであるという点も。

それに、最初に訪れた1980年代は、まだ航空券代金が高かったのですが、1990年前後からはかなり安くなり、ダイビング1回当たりの単価が伊豆半島付近へ行く費用と変わりがなかったというのも、パラオに通った大きな理由ですね。格安の宿に泊まれば、8泊程度で10本潜って航空券、ホテル代、食事、ダイビングフィー含めても総費用15〜17万以内で納まりましたから。コストパフォーマンスが非常に良かったんです。おいしいものを食べてのんびりするスタイルが大好きで、陸の上では何もしないというのもありますけどね。

結婚後、家族が同行するとダイビング回数が極端に減って2ダイブの時もありましたが、子どもたちを遊ばせるアクティビティは少ないながらもあって、イルカと一緒に泳げる施設もありました。

ダイバー図鑑
イルカと遊べる施

結局、パラオでのダイビング経験は足掛け30〜34年で、800本くらいにのぼります。

ダイバー図鑑
1984〜2012年頃まで長年利用したパラオホテル

――いろんな意味で、ダイバーにとっての楽園なんですね!

パラオは南国で有名な魚は大抵のものが見られますし、様々なスタイルで楽しめるんです。

ジャーマンチャンネルで潜れば必ず見られるマンタ。今までにもう何十枚と見ています。幻想的な太陽の光が届く洞窟ブルーホールもあります。シャンデリアケーブという水中洞窟は、洞窟内に空間があってレギュレーターを外せたりもします。ただ、途中は真っ暗ですから水中ライトが必須です。魚影の濃いシアスコーナーというドリフトポイントもあります。流れがあるところではバラクーダ何十匹の群れ、フエフキダイ、ギンガメアジなど、多数の魚を見ることができます。

ダイバー図鑑
パラオの思い出の写真

逆にドリフトできないポイントもあります。ブルーコーナーは、流れがある時は壁に捕まって魚を観察するスタイルです。ドリフトすると、どこかへ流されてしまうからなんです。水中で潮流の流れる音が「ごおー」と聞こえるくらい流れることもあるんですよ。

ダイバー図鑑
ブルーコーナー常駐のナポレオン君

こんなふうに、美しく、穏やかなダイビングも気合の必要なダイビングも経験できて、小さな魚からマンタまで見られる。それで経験本数の大部分をパラオで過ごしてきました。

――長年パラオに通われる中で、変わってきたことはありますか?

パラオのサンゴは水温の上昇で多くが死滅していきましたね。逆に変わらないのは魚の数、魚影の濃さでしょうか。

また、コストの面も大きく変わりました。2000年代に入って大量に中国人観光客が流入しだすと状況が一変し、ホテル代、飲食代が高騰、その後に航空券もじわじわ上がりました。2018年には、ダイバー以外の一般旅行者にはあまり縁がないリゾートになっています。

――ダイバーたちにも変化はありましたか?

我々の世代前後は、とにかく猪突猛進のガテン系ダイバーが多くいましたが、今はゆるキャラ系ダイバーが増えてきている印象があります。ガテン系ダイバーたちは、なにしろタンクの経験本数を増やすことしか考えず、ダイビングの沼にハマっていましたよ(笑)。少数ですが人生をかけている方もいました。サイパンでも1980年代にも数名いましたけど。

それから、器材についてもダイビングコンピュータを装備するダイバーがずいぶん増えましたね。フィンに関しても、しなりが柔らかいブーツタイプを選択する方が多いのでは?自身がずーっとSプロの硬いラバーフィンを愛用していました。BCDも始めた頃はショルダータイプでなく股掛けタイプでしたね。

――本当にいろいろ変わったんですね!ダイビングコンピュータについては、代わりにダイブテーブルを活用されているんですか?

はい。ダイビングコンピュータ(ダイコン)は所持せず、樹脂のダイビングテーブルで計算し、毎回浮上時には潜った水深と関係なく必ず減圧停止の時間を取ることで、安全を確保しています。潜水時間を測るためにセイコーのダイバーウオッチは必ず装着しますね。あと、水面休息の時間はかなり長めに取るようにしています。海外リゾートでは1日のスケジュールにゲストの希望を取り入れてくれて、フレキシブルに組めるところも多いので。

ダイバー図鑑
ダイビングサービスで提供されるお弁当

――なるほど。papas-oneさん自身はこの40年でダイバーとしてどんな変化がありましたか?

ダイビング人生の前半は毎回ワクワクして楽しく感動していましたが、中盤以降は非日常の体験が毎回重なり、それがやがて日常化すると、感動のボルテージがあまり上がらなくなっていました。ブルーホールも200回くらいは潜ったので、今では感動というより当たり前になってしまいましたね。

パラオ以外の海にもいろいろ行きました。サンゴ礁のきれいさでは、オーストラリアのグレートバリアリーフが世界一だと思います。実際に潜ってみて感動しました。それから、水中から見る光景が一番美しい洞窟はメキシコのセノーテかなと思います。トラックの沈船(レックダイビング)、マーシャルの大深度潜水、ケーブダイビングも。

楽しかったことはたくさん経験していますが、今は美しい海に感謝の気持ちだけです。

ダイバー図鑑
カヤンゲル島へ向かうボートから

――そうか、日常になっていくんですね。私たちビギナーが感激するようなことでも「もう見飽きた」というベテランダイバーさんも時々いらっしゃって、「じゃあ、どうして潜り続けているんだろう?」と思うことがありましたが、日常だからこそ潜り続けるんでしょうね。

中性浮力で水中停止こそ、ダイビングの醍醐味!

――papas-oneさんにとって「ダイビングは面白い!」と感じるのはどんな時なんでしょうか?

ウェイト2kgで水中停止できるのが醍醐味ですね。スタイルはドリフトが好物です。

――水中停止!中性浮力は100本未満のビギナーダイバーにとっては大きな壁ではないかと思います。

水中停止がなんとかできるようになってきたのは、150〜200本経験したころでした。

感覚的なものなので説明するのが難しいテクニックですが、中性浮力で心がけているのは呼吸の緩急と肺から吐く空気量の調節ですね。ある程度潜降したら、ほとんどBCDへの給排気は行いません。現地のベテランガイドたちは水中停止した状態でドリフトできます。

――すごいですね!では、ダイビング中にヒヤッとした経験はありますか?

トラブルはいくつか経験しています。

たとえば、潜降中にオクトパスがフリーフローを起こしてしまって。数回パージしましたがフローが止まらず、そのまま浮上しました。水面に出た時には残圧がほぼゼロ。すぐにボートへ戻り、ガイドが予備の器材を用意してくれたので他のメンバーと合流してダイビングはできました。もちろん、レンタル器材一式は無料で。オーストラリア。グレートバリアリーフでの経験でした。

――再合流できてよかったです!何が原因だったのですか?

オクトパスの塩噛みが原因と推測し、帰国後、洗浄・オーバーホールに出しましたね。

あとは、残圧がすぐ減ってしまうこともありました。エアーを大食いしていた時代です。これは経験本数を重ねることで大幅に減っていきました。

――今は上手な方も、昔はエアをたくさん消費していたと聞くとほっとします。

そして、潮に流されかけたこともあります。これはパラオ、とくにブルーコーナーでは実はめずらしいことではありません。10年くらい前からは、岩に引っ掛けるカレントフック、フロート、フラッシュライト携帯が潜航の条件になっているくらいです。

――潮に流される話を聞くと、かなりハラハラします。

水中のロケーションを求めるのであれば、ある程度流れていないと大物の魚が見れません。潮に流されることそのものよりも、潜航前のブリーフィングで指示された方向と違う方向へ流され、グループと離れてしまうことが危険です。ドリフトダイビングも、みんな一緒に同じ流れに乗ることが大切です。パラオでも、潮流に流されガイドボートから離れるロスト事故がたびたび起こり、過去にも数名の犠牲者が出ています。有名なとあるタレントも、過去にパラオでロスト事故に遭って幸運にも生還しています。

激しい潮流に流された場合は、器材や道具は一切役に立ちません。ですから、器材が役に立たないほどの流れがあるポイントへ潜ること自体がNGです。ただ、海の中の潮流も突然変化するので注意が必要ですね。

潮流の変化を予測して当日のポイントを決めるのはガイドの役目です。経験上、その国で最低1000本くらいガイドを務めた方がいるダイビングショップを選択するのが安心かなと思っています。しかし、エントリー前に「少し流れてますよ」と言われて潜航してみたら、中層から下でゴーゴー流れていた…なんてこともありました。一緒に潜ったメンバーとサンゴや岩を力いっぱい握りしめて魚を見ましたね。

ハワイ島にあるポイントでは、海底までガイドアンカーが打ってあるロープに、太めのアンカーロープで体を固定して、ダイバーたちがまさに鯉のぼり状態でダイブするクレイジーなポイントもあります(笑)。

――大変だからこそ、狙った魚を見られた時の感動も大きいのでしょうね。

海を限りなく愛する人だけがダイビングを続けられる

――新型コロナの騒動がおさまったら、やりたいことはありますか?

たぶん、コロナ明けで出かけても2本くらいしか潜らないと思います。パラオは今でも受け入れOKなんですけど、年齢的にも体力的にも診断書提出が要求されるジジイになったのも要因のひとつです。パラオでは、水面でぴちゃぴちゃのスキンダイビングでも満足できるので。あとは食堂で刺身定食を食べていると思います(笑)。少し前までは「息子や娘と一緒にダイビングでも」と思った時期もありましたが、まったく海に関して興味がない成人になっていますので…少しだけ残念ではあります。そもそも彼らはまったく泳げないのでね。

――そうなんですね。というか、パラオでも刺身定食が食べられるんですか!

クエ(あら)のフルコースは、また食べたいですね。パラオの居酒屋には沖縄の泡盛もありますよ。

――なんと。海の楽しみ方はまだまだありますね。それでは最後になりましたが、これからダイビングを始めてみようか迷っている方、続けられるか不安に思っている方にメッセージをお願いします!

ダイビングは前提条件として、「海が好きである」こと。これが根底にないと、おそらく継続できません。厳しい言い方をすれば、「続けられるかな?」と思う時点で継続できません。でも、限りなく海を愛してやまない方なら、長い期間そして、体力的に老いるまでダイビングを楽しむことができると思っています。

それには、取り巻く環境、仲間、特にダイバー仲間との関係を長く保てるかどうかも関係してきますね。そして、経済的な部分も大きいです。海に魅せられたなら、また潜りたいという気持ちを原動力にして、経済的な余裕を作り出す努力、その工夫も必要でしょう。ただ、ダイビング器材は丁寧にメンテナンスすれば30年以上使えますから、初期に高いものを購入しても長期間使用すれば減価償却できますよ。自身はサイパンへの海洋実習の前に重器材を一式買いました。

ダイビングを知らない方に海の魅力を伝えるのは不可能かなと経験上は思います。海の本当の魅力を知るには、深く海のことを理解できないと駄目かなと。だって、想像してみてください。太平洋のど真ん中にプカプカと浮かびながらボートを待つ時間を。あの感覚は言葉では説明がつきませんよね。

余談ですが、結婚相手はダイバーのバディを選ぶと、その後の家庭生活やダイビング人生が楽しく過ごせますよ!

ダイバー図鑑
ブルーホールでの集合写真(大昔)

――ありがとうございました!

10代から海外リゾートの海に魅せられ、40年近くも潜り続けて来られたpapas-oneさん。「海の魅力は言葉にはできない」と言いながらも、語られる言葉には海への愛があふれていて、ひとりの人をそんなにも夢中にさせるこの世界の面白さはきっと伝わるんじゃないかなと思います。楽しいダイビングを終えて水面でボートを待つ時間は、本当に、まさに至福ですよね!すっかり海が恋しくなってしまいました。