愛用中のダイブコンピューター、SUUNTO D4iなのですが、今年の夏に久々に取り出したところ、

ダイブコンピューターの電池交換
電池切れ

そうだよね…。

何しろ、2015年10月に買ってから怒涛の勢いで71本潜り、2017年からはブランクで電池交換せずにいたもんなぁ。でも、せっかく電池交換するなら中身見てみたいなぁ。よし、SUUNTOさんに聞いてみよう!

そんなことを考えながら、ダメ元で「見学と取材させてください!」と聞いてみたところ、まさかの快諾!(ブログこつこつ書いててよかった♡)

早速、SUUNTOダイバーズリペアセンターに行って来ました♡

SUUNTOダイバーズリペアセンターとは?

ダイブコンピューターの電池交換

SUUNTOダイバーズリペアセンターは2017年に設立され、SUUNTOからL2認定を受けた国内唯一の修理工場。ダイブコンピューターの電池交換やオーバーホールを専門に行なっています。

SUUNTOダイバーズリペアセンター(大阪府大阪市西淀川区大和田6-16-3

日本で液晶交換やインナーモジュール交換が公式に認められ、ソフトウェアアップデートや、正規の部品を購入できるのはここだけです。

L2とは「レベル2」のこと。SUUNTOの修理工場には、

  • レベル1…ストラップ交換作業のみ
  • レベル2…基本的に故障修理全般(全世界で約60箇所)
  • レベル3…フィンランド、米国、香港でL2で修理不可能なものを解析(世界で3箇所のみ)

という3つのランク分けがあって、それぞれ認証の条件が課されているのだそう。

びっくりなのはその厳しさ。レベル2になると、静電気が起こるのもアウト!

ダイブコンピューターの電池交換

そのため、床も、

作業台も、

グローブやサンダル、ドライバーやピンセットも、

ダイブコンピューター内部を触る時にはぜーんぶ静電気除去仕様!そして、作業中は手首にアースバンド!

さらに、室温は18〜25度、湿度は35〜50%にキープ!

実は、湿度35%以下になると静電気が起こりやすくなり、逆に湿度が高すぎると内部の基盤にサビや接触不良を起こすリスクが多くなるんだそう。

静電気以外にも、故障や不具合を防ぐための基準がたくさんあるので順にご紹介していきます♡

ちなみに、昔は別の会社が日本の正規代理店と修理工場をされていたのですが、2017年3月で契約終了。2017年4月からはフォースエレメントジャパンがSUUNTO総代理店となり、高水準のメンテナンスを行うためにSUUNTOダイバーズリペアセンターを設立しました。

SUUNTO D4i電池交換の様子

早速、ダイブコンピューターを見ていただきましょう!

1. 作業前のダイブコンピューターの状態をチェック

まず中を開ける前に、その時点で何か不具合(破損や水没)がないかをチェックします。

外観とボタンの挙動を確認。その後、ストラップを外して、

ダイブコンピューターの電池交換

次はこちらの機械へ。その名も「プルーフテスター」。

ダイブコンピューターの電池交換

水を使ったテストの前に、水没の可能性を調べることができるのだそう。

ダイブコンピューターの電池交換

中にダイブコンピューターをセットして、コンプレッサーで空気圧をかけて歪みを計算することで、水没可能性がわかるらしい。すごーい!

SUUNTOから認定されていない海賊店などではプルーフテスターがなく、この事前チェックをせずに水につけて水没させてしまうこともあるんだとか。

この時点で水没の可能性がある場合は、どこに問題があるかを特定する機械にかけるそうです。

ダイブコンピューターの電池交換

私のD4iは無事クリアしました!

ダイブコンピューターの電池交換

2. 背面カバーを開けてOリングを交換

背面カバーを開けて、

ダイブコンピューターの電池交換

いよいよ電池交換かと思いきや、まず最初にOリングを交換。

水中写真を撮る人には馴染みがあるパーツですが、Oリングはゴムでできていて、機械の内部に水が入るのを防ぐための重要なパーツです。

ダイブコンピューターの電池交換
ダイブコンピューターの電池交換

SUUNTOの品質基準では電池交換の時には必ずOリングを変えることが決まっているそう。これもレベル2の工場に求められる基準です。

「ゴムでできているため経年劣化してしまうので、正規店では電池交換の際に必ず交換しています。触ってみると劣化がよくわかりますよ。」とエンジニアさん。

手渡された古いOリングと新しいOリングを触ってみると、一瞬で納得!

ダイブコンピューターの電池交換

奥の新しいOリングはやわらかくてしなやかなのに対し、手前の古いOリングは固くてスカスカ。指触りが全く違っています。写真で見ても、質感ちょっと違いますよね。

Oリングを他店で変える場合、正規品でない可能性が高いので注意してください。ホコリが付着しただけでも水没の可能性がある精密機械なので、コンマ1mm単位でも誤差が生じる可能性があるサードパーティ品の使用はおすすめできませんね。」とのこと。確かに。

ダイブコンピューターの電池交換

グリスを塗って装着、Oリング交換完了!

3. 電池交換!

電池交換の前に、まずは消費電力をチェック。SUUNTOでは作業工程の中でこの消費電力の計測を最も重要視していて、正規店では必ず計測を行います。

ダイブコンピューターの電池交換
ダイブコンピューターの電池交換

というのも、消費電力チェックは、静電気によるコンピューターの異常がないことを知るための重要な作業なんだそう。

静電気の電流は、精密機械であるダイブコンピューターの心臓部分のプログラム暴走を引き起こしてしまうんだとか。すると、消費電力が必要以上に増えてバッテリーの寿命を著しく縮めてしまったり、液晶表示の不具合や誤動作などのトラブルを引き起こすとのこと。静電気ってこわい。

ここでようやく電池を交換します。

ダイブコンピューターの電池交換

取り出した電池の電圧と電流をチェック。私のダイコン電池は電圧は異常なし。残量が空っぽでした。

新品の電池を開封して、

ダイブコンピューターの電池交換
ダイブコンピューターの電池交換

電池残量が112%あることを確認してから入れ替え。背面カバーを付けて、

ダイブコンピューターの電池交換

トルクススクリュー(留め具)も新品に交換します。

別の店でたまに古いプラス型のネジが使われて交換されることがあるそうですが、最新版はこのような形。

ダイブコンピューターの電池交換

トルクススクリューは、プラスドライバーで締めるネジよりもしっかり締めることができるそう。

これで電池交換の作業は完了です!

4. ソフトウェア更新と時刻設定

電池交換が終わったらソフトウェアの更新を行います。これができるのはL2の工場、つまり日本ではここだけ

ダイブコンピューターの電池交換
ダイブコンピューターの電池交換

専用のPCにケーブルを挿すと、

ダイブコンピューターの電池交換

最新のソフトウェアを直接インストール!

すると、

ダイブコンピューターの電池交換

時刻が自動設定されてる!(なお、アップデートすると過去のログは消えてしまうので、電池交換に出す前にPCに接続してログをDM5に保存しておきましょう)

さあ、ここまで来たらあともうひと息です。

5. テスト、テスト、テスト!

もうひと息なんですが、最後の工程であるテストがまたもや厳しい。

最初にボタンの挙動をテストします。

ダイブコンピューターの電池交換

そして、水を使ったテストダイブをする前に、再度プルーフテスターで「水没可能性がないかどうか」をテストします。

ダイブコンピューターの電池交換

万が一、この時点でエラーが出たら、問題のある箇所を特定して、もう一度分解して調整するそう。

水没の危険性がないことが確認できたら、いよいよ水圧チャンバーでテストダイブを行います。

これが水圧チャンバー!

ダイブコンピューターの電池交換

今日のテストダイブ待ちのダイコンたちが次々とエントリーしていきます。

ダイブコンピューターの電池交換

ああ…行ってらっしゃい。私より先にダイビング復帰おめでとう(涙)。

潜行を開始し、水深30mに達したことをピーピー鳴って知らせるダイコンたち。

ダイブコンピューターの電池交換

潜行を続け、40mくらいの水深に潜っている想定で水圧をかけて15分。

ダイブコンピューターの電池交換
ダイブコンピューターの電池交換

エンジニアさんが思わず、

「水深の誤差、10cmしかないでしょう?これが世界のSUUNTOクオリティなんです。個人的には、SUUNTOはやっぱり世界一だなって思うんですよ。」

と、ぽろり。

SUUNTOは世界初の液体封入式コンパスを生み出した、ダイブコンピューターのトップシェアを誇る老舗ブランド。日本でも「インストラクターは猫も杓子もSUUNTO」だった時代が長かったのだとか。国産ソーラー充電式が登場してからは、「電池交換不要」という触れ込みで日本国内ではソーラー電池にも人気が集まりました。

「電池交換不要というのは理想ですが、幻想なんですよね。メーカーのウェブサイトにも、実は電池交換不要とは書かれていません。ソーラー充電式でも、USB充電式でも、交換式でも、電池であることには変わりありませんからね。電池自体の寿命からは逃れられません。」

なんと。そういうことだったのか。日本は普段の生活の中でソーラー電池に馴染みがあるから、電池交換不要と信じ込んでしまっているのかもしれませんね。きけんがあぶない。

その後、浮上。安全停止もします。

ダイブコンピューターの電池交換

無事、エグジット。

ダイブコンピューターの電池交換

わーん、おかえりなさい。なんだか無性にダイビングが恋しくなってしまう数十分でした。

最後に、今のテストダイブのログを確認。ストラップをつけて、電池交換終了です!

ダイブコンピューターの電池交換

正規店エンジニアさんたちに聞いてみた!ダイブコンピューターの疑問

一連の流れを見せていただいて、めっちゃ面白かったのですが、ついでに気になってたことアレコレ聞いてみました♡

Q. 自分で電池交換しても大丈夫ですか?

「いいえ。故障の可能性があり、さらに保証外になってしまいます。また、ご自身で作業された時に不具合が生じた場合、対処のしようがなくなっていることがあります。特殊な設備がなければ、不具合が起こっていることに気づくことが難しいこともあります。大変危険です。」

Q. 電池交換はどこに頼んでも同じですか?

「いいえ。電池交換といえど、メーカー基準を満たしたところで行わないと故障の原因になります。背面カバーを開けますからね。その時はよくてもしばらく経ってから不具合が出ることも多いです。

弊社に直接お送りいただいても構いませんが、ダイビングショップやダイビングサービス経由で依頼される場合は、きちんとSUUNTOから認定を受けている工場に依頼されていることを確認しましょう。

国内では、弊社以外ではOリングや液晶などの正規品の交換、ソフトウェア更新はできないので注意しましょう。ちなみに弊社では保証期間を過ぎて有償で承ったものについては、交換した古い電池、Oリング、ネジなどを品物とともにお返ししています。」

「海賊店などで修理作業中に壊れてしまい持ち込まれるケースも多々あります。これまでであったのは、テスト中の水没、消費電力増大、ネジ折れで開かないなど多数です。手に負えなくなってから持ち込まれるので…本当に…どうしてこうなった…というようなものも多くて。」

「お客さんにも、お金とスケジュールの面でご負担が増えているのではと心配ですね。」

Q. 電池交換作業の途中で費用が変わったりしますか?

「電池切れ以外の不具合があった場合は、問題点を伝えてお見積もりをお出しします。OKいただいてからの作業着手となります。」

Q. どんな故障が多いですか?

「ダイビング後にきちんと水洗いをせず、塩分が残ってボタンが動かなくなったり、設定のミスだったり。きちんと管理すれば防げるトラブルが多く見受けられます。」

塩害がひどいとこんな道具を使わないと開かないことも

「あとは、海賊店やご自身でダイブコンピューターを開けたことで、水没や部品破損したケースもあります。」

「ダイブコンピューターは時計型ですが、時計とは全く非なるもの。減圧症を予防するための精巧なコンピューターです。ひとりのダイバー仲間として、命がかかっている器材だということを肝に命じていただきたいですね。」

Q. どうすれば長く使えますか?

「長持ちの秘訣はなんといってもメンテナンス。十分に真水の流水で洗い、少しの間、真水につけておく。これだけで寿命が大きく変わります。丁寧にメンテナンスしながら10年以上使っている方もたくさんいらっしゃいますよ。」

Q, 依頼が混み合うのは何月ごろですか?

「暖かくなる5月ころから潜り始めるダイバーが増えるため、3月4月からが繁忙期ですね。余裕を持ってご依頼いただくことをおすすめします。」

Q. 製品ごとに電池交換やオーバーホール方法は違いますか?

「はい。カバーの開け方、チェックするべき項目、交換するパーツ、操作方法に至るまでそれぞれの機種ごとにメンテナンス方法が定められています。新製品が出るとSUUNTOから写真付きの詳細なマニュアル(社外秘)が送られてくるんですよ。」

Q. ちなみに、みなさんが使ってるダイコンはSUUNTOですか?

「SUUNTO D6i NOVOを使用しています。水中で必要なデータの視認性、厳しいぐらいのアルゴリズム、D6iの耐久性、もちろんデザイン的にもSUUNTOのダイコンが好きですね!」

「SUUNTO DXを使っています。やはり自分で選ぶならSUUNTOです!」

さすが、SUUNTO愛があふれていますねー!

たかが電池交換、されど電池交換

ダイブコンピューターの電池交換

いやー、どっぷりSUUNTOのメカニックな世界に浸れてとても楽しい一日でした♡エンジニアさんたちの手仕事を見るのも、高機能な機械を見るのも、なかなかできない体験で面白かったです!

私のダイブコンピューター以外に、その日の分だけで20台ほどのダイコンが作業台の上にありましたが、1台1台の状態をよく把握されていて丁寧な仕事だなぁと。実際に電池交換を見せてくださったエンジニアさんは、機械いじりや分解が大好きで、まさに天職という感じでした。

メーカー認定や基準がいくら厳しくても、結局作業するのは「人」。実際にお会いして話を伺うことで、この人たちなら大切な器材を任せられそうと安心しました。

いかがでしたか?器材を託す人のことを、値段だけでなく、技術で判断するのも賢いダイバーのあり方かもしれませんね。参考になれば幸いです♡

取材協力:SUUNTOダイバーズリペアセンター