ダイバーの正体に迫る本企画、15人目は「世界のウミウシ」中の人、木元さんです。よろしくお願いします!

木元さんプロフィール

現在ダイビング歴10年のAOW(PADI)。経験本数は790本。お仕事はプログラマー。「世界のウミウシ」の中の人。以前、図鑑『新版 ウミウシ』著者の小野篤司さんへのインタビューをさせていただいた繋がりでお話を聞かせていただきました。

泳ぐのも濡れるのも好きじゃないけど、「新しい楽しみを見つけたぞ」

――まず、ダイビングを始めたきっかけについて教えてください。

新婚旅行ですね。奥さんが水上コテージに泊まりたいと言うのでモルディブに行くことになったんです。その時期ちょうどシュノーケリングでジンベエザメに会えるプランがあって。でも、それ以外のアクティビティはダイビングくらいしかすることがなくて、どうせならCカード(ライセンス)を取ってから行った方が楽しめるだろうということでOWを取りました。

――おふたりとも海が好きなんですか?

奥さんは海が好きで、泳ぐのも好きですね。自分は泳ぐのも濡れるのも海も好きじゃないです。水族館は好きですけどね。

――なんと、海好きじゃなかったんですね!OWはどこで取ったんですか?

JRのパンフレットで安くて行きやすかったので東伊豆の伊東に行きました。OWを取ってからモルディブに行ったのは正解でしたが、モルディブで潜っていなかったらダイビングは伊東で終わっていましたね。

世界のウミウシ木元さんOW講習の様子
OW講習の合間に

――何があったんでしょう?

Cカード取得後にボートダイビングも体験だけしておこうと思って、もう一度同じ現地サービスでファンダイブをしたんです。透明度の高くない中でロープをつたって潜行していくのが奥さんは怖かったみたいで、パニックになって上に戻ろうとしてしまって。おまけに初ファンダイブの我々は30分であっというまにエアがなくなり、先にエキジットして漁船で他のゲストを待っていたら船酔いしてしまって。ログ付けもせずに帰りました。それに今でもときどき思いますけど、ダイビングショップって常連さんがいて、はじめての時は肩身が狭いんですよね。

――それは大変なファンダイビングデビューでしたね。一方でモルディブの海はどうでしたか?

モルディブはロープなしフリー潜行だったんですが、水がきれいで怖い思いをすることはありませんでした。シュノーケリングでジンベエザメにも会えたし、さらに次の日のダイビングでもまたジンベエザメに出会ったんです。しかも2匹も!ダイビングでジンベエザメを見られるのは奇跡的だと言われましたね。

ジンベエザメ(世界のウミウシ木元さん)
モルディブで見たジンベエザメ

――それはすごいですね!

でも、モルディブは厳格なのでOWだけでは18mより深いところに行けなかったんです。ハネムーンで来ている他のダイバーさんたちがディープ講習しているのにも参加できなくて。うちも申し込んでおけばよかったなあと。それで、帰国してしばらく経ってAOWを取りに行きました。なにをするにもあれは取っておく方がいいなと。

――ダイビングをはじめて海への印象は変わったんでしょうか?

相変わらず泳ぐのも濡れるのも好きではないですね(笑)。ただ、もともとは旅行と写真が好きだったんですが、新たな楽しみを見つけたぞって感じではありました。

――AOWはどこで取ったんですか?

大瀬崎と雲見の2日間です。軽器材を買いに行った時にmic21で講習を受け付けていたので申し込みました。4月だったので初ドライスーツだったんですが、全没してやばかったです。

――ええ!どうなるんですか、全没すると…!?

寒いです(笑)。ドライスーツを脱いだらびしょびしょでした。

大物狙いは純粋な趣味

――これまでで印象的だったダイビングについて教えて下さい。ひとまず、ウミウシ以外で聞かせていただけますか?

ひとつめは、マンボウを見に大瀬崎で潜った時に死ぬかと思ったことで…

――ええ!何があったんですか?

器材ショップのツアーに参加したんですが、ゲスト6名くらいにガイド1名だったんです。あいにくその日は天気が悪く海が荒れていて。ちょっと厳しそうかなと言いつつ、マンボウのいる外海に行こうとエントリーしました。途中でソロで潜っている方が「40mのところにマンボウがいた」と言っていたんですが、我々ゲストはまだ30本も潜っていないビギナーがほとんどだったので難しいと思ったんでしょうね。26mくらいのところで、ガイドが「マンボウを探してくるからここに捕まって待っておけ」とひとり行ってしまったんです。

26mって初心者にとっては深くてエアはどんどんなくなるし、動かないから体が冷えていくし恐怖でした。まあ、暇でウミウシ見つけて撮ったりしていましたけどね。結局マンボウは見つからなくてエキジットしたんですが、大瀬崎の外海って波が高いと陸に上がるのがとても大変なんです。奥さんや他のゲストが立っていられなくて、陸に打ち付けられながらガイドが引きずり上げるという。

――それはハードな体験ですね。ダイビングを嫌いにならなかったんですか?

伊豆大島でベテランのダイバーさんに「100本くらいまでは間を開けずに潜ると楽しくなるよ」と言われたのが指針になっていて、どんどん潜ろうって感じでしたね。すでに軽器材とダイブコンピューターを買っていたから元を取りたい気持ちもありました。

――なるほど。

ちなみに、100本目にも大瀬崎に行って、そのときは無事マンボウ見ることができましたよ。水深37.9mで、肉眼ではしっかりと見ることができました。でも、エントリー前に「マンボウを見られても一瞬かもしれないからカメラを準備しておくように」と言われていたのに、もたもたしていたらあっという間にいなくなっていました。これ以来マンボウは見られていませんね。

――リベンジ成功してよかったですね!

次の印象的なダイビングは、はじめてのシパダン。天気が超悪くてですね。

――濡れるの好きじゃないのに(笑)。

そんなのばっかりです(笑)。シパダンでリゾートステイの場合、成田からコタキナバル経由でタワウまで飛行機で移動して、タワウから車で港へ、港から船でマブール島まで行くんです。通常スピードボートで30〜40分ぐらいで着くらしいんですけど、海が大荒れでびしょ濡れになりながら1時間くらいかけてようやく着きました。翌日からの海も天気が悪くて、リゾートからシパダン島までもスピードボートで行くんですが、雷ゴロゴロ大雨のなかで怖かったですね。

――大雨の中、ダイビングはしたんですか?

しました。その日は透明度も悪いし暗いしであまり良くなかったけど、バラクーダもギンガメアジもはじめて見ました。ウミウシを見ている時は雨が降っても関係ないですけど、ワイドな海だと晴れていて欲しいですね。

――たしかに。海外にはよく行かれているんですか?

結構あちこち行きました。いろいろ見ましたよ。パラオ、セブ、ロンブロン、レンベ、フィジーも行きましたし、オスロブ(フィリピン)ではジンベエザメ、メキシコ(ラパス)でアシカ、マラパスクア島でニタリ、コモドクルーズでイレズミフエダイ、ラジャアンパットクルーズでブラックマンタやエポレットシャークなど。

エポレットシャーク(世界のウミウシ木元さん)
ラジャアンパット固有種の歩くサメ、エポレットシャーク

――エポレットシャーク、これサメなんですか?

サメです。歩くサメ。ラジャアンパットの固有種ですね。インドネシアには結構いるんですけど夜行性なのでナイトダイビングしないと見られないんです。

――クルーズでナイトダイビングってちょっとドキドキしますね。ビーチと違ってエントリー難しそう。

小さいボートに乗り換えていくので大丈夫ですよ。明かりがまったくないので星が超キレイです。夜光虫なんかが多いと航跡が光るのでやばいですよ〜。

――やばい、行ってしまいます。

ラジャアンパットは10日間でふたりで100万円ぐらいかかった気が…。

――おお…。夫婦ダイバーのいいところはいっぱいあるけど、辛いところは抜け駆けが許されないところだなあ(笑)。

そうですね、抜け駆けは大変です(笑)。

――こうして見ると、ウミウシ以外でも結構潜られているんですね。

バリ島トランベンにも行っているんですが、それ以外は奥さんの要望というところが大きいですね。青い海に行きたいっていう。大物や魚も嫌いではないのでそこは写真の趣味として試行錯誤している感じです。なので、ウミウシ以外のダイビングは自分にとっては純粋なレジャーなんです。

マンタ(世界のウミウシ木元さん)
悠々と泳ぐマンタ

ウミウシとの出会い

――木元さんといえばウミウシ同定の強い味方「世界のウミウシ」の中の人でもあります。というわけで、ウミウシについてもガッツリお話を聞いていこうと思います!最初にウミウシを見たのはいつのことだったんですか?

ウミウシの存在自体はもともと知っていたんですが、はじめて見たのはモルディブです。でも、全然きれいというわけでもなくて。

AOWのナイトダイビングの時にたくさん見て、これは面白いなーと。不思議な生き物が砂地をたくさん歩いていて、実際はそれらはだいたい貝だったんですけど、「これはなんて種類なんだろう」って引き込まれて、ウミウシ図鑑.comや本を見ながら調べましたね。そのうちに、「ピカチュウウミウシ(ウデフリツノザヤウミウシ)」を見たいと思うようになって「海の案内人ちびすけ」というダイブサービスを利用して、ウミウシダイビングをしに行ったんです。

――ウミウシダイビング!行ってみてどうでしたか?

ウミウシを見つけるのが上手なガイドさんがいて、ついていくと次々見つかるので「これはやばい」って思いましたね。でも、砂地でフィンをバタバタさせて砂を巻き上げてしまって、フィンの使い方を怒られたのが怖かったです。おかげで意識がかなり変わって、今も活きていますけどね。あとはコンデジの限界を感じましたね。

大瀬崎のピカチュウ(世界のウミウシ木元さん)
大瀬崎のピカチュウ(ウデフリツノザヤウミウシ)

――すごいですね!コンデジの限界というのは?

ガイドさんが見せてくれるウミウシがとにかく小さくて、当時クローズアップレンズもなかったから写らなくて。しかも光がちゃんと当たらなくて色が出なかったんですよね。ウミウシを見て感激どころか全然撮れなくて悔しかったです。

――ありゃー。でも、そういうので逆に火がつくんですよね(笑)。

そうですね。それでストロボとクローズアップレンズを買いました。ウミウシは結構撮れるようになりましたね。ちなみに、ちびすけではダイビング後に地図を書いてくれます。

その後、沖縄でウミウシを見るのにおすすめのダイブサービスを聞いたところ、「小野にぃにぃ」か「オーシャンブルー」と言われて。実はこれがウミウシダイビングに対する認識を大きく変えられたきっかけでもあり、運営している「世界のウミウシ」の始まりでもあるんです。

――なんと!くわしく聞きたいです!

「世界のウミウシ」はこうして始まった

――オーシャンブルーでのウミウシダイビングはいったいどういうものだったんですか?

こういう潜り方もあるんだなと衝撃でした。2日間で5本潜って、全部1時間ウミウシオンリーなんですよ。1本のダイビングでだいたい30種ぐらい見て、2日潜れば100種類ぐらい見られるという感じで。アカテンイロウミウシ、フチベニイロウミウシ、シモフリカメサン、イシガキリュウグウの捕食など。ゾウゲイロウミウシもこのときはじめて見たかな。

――2日で100種!めっちゃ濃いですね。

しかも、潜行して1箇所で待っているとガイドふたりがあちこちからウミウシを拾ってきて、わんこそば状態で見られるという。今はそういうスタイルではないんですけど、当時はそんな感じで。

――わんこそば状態!?

ウミウシをたくさん見つけてくれるのはもちろんありがたいんですが、ダイビング後はショップで撮った写真をディスプレイに映しながらログ付けするんです。毎日。これは何々ウミウシですねって全部同定して、今日は何種類でしたね〜とレビューして。しかも「同定するにはこういう撮り方のほうがいいですよ〜」と教えてくれるので写真の撮り方も変わりましたね。ここ数年でウミウシが激減しているので100種は難しいかもしれませんけど。それからオーシャンブルーへは年に1〜2回ペースでリピートしています。

――たしかにそれはウミウシダイビングの印象が大きく変わりそうですね。ウェブサイト「世界のウミウシ」にも繋がったんですよね?

はい。オーシャンブルーの代表・今川さんが「世界のウミウシ」の初期の管理者なんです。自分の仕事はウェブプログラマーなんですが、ウミウシ図鑑.comでエラーが出ていたり更新されていなかったりしたのを見てコンタクトを取ろうとしたんですけど返事もなくて。でも、今もそうですがウミウシの愛好家であって専門家ではないから、どうしたものかと二の足を踏んでしまっていたんです。そんな時に今川さんと出会ってからいろんな経緯があって「じゃあもう新しいサイトを作りましょう!」と2015年に公開しました。

それまでは大物狙いの海であってもウミウシ探しをしていたくらい愛好家ではありましたが、あくまでレジャー・ダイビングの範疇でした。それが、今川さんと「世界のウミウシ」をつくってからはただの遊びではなくなりました。

――「世界のウミウシ」を構築するうえでこだわったポイントや苦労した点について教えていただけますか?

「世界のウミウシ」は投稿型のウェブサイトなんですが、ユーザーから投稿されたウミウシ写真をすべて同定してから公開することがこだわりでもあり、苦労している点ですね。今はもう自分ひとりで運用していますし…。

――なんと、今はおひとりで!?すごく詳しくなったのでは?

はい、それで急速に詳しくなりました。論文もかなり読むようになりましたしね。

――ふつう投稿型のウェブサイトで一番困るのはユーザー数や投稿数が増えないことなんですけど、「世界のウミウシ」は5年経ってもアクティブな印象です。

そうですね、コロナの影響で最近は少し落ちていますが、ウェブサイト公開から右肩上がりでしたね。小野さんのインタビューでも言われていたことですが、ウミウシはまだまだ未開拓の領域なので同定ニーズもたくさんあるんだと思います。インターネットの手軽さもありそうです。船の上でスマートフォンでさくっと調べられたりもしますし。

――嬉しい悩みではありますが、それだけアクセスが多いと、おひとりで同定する木元さんもなかなか大変ですね。何がモチベーションになっていますか?

ごくたまに、見たことのないウミウシが投稿されることがあって楽しみです!「世界のウミウシ」では不明種として掲載したり、しっかり写っている写真であれば〇〇の一種として登録しています。たとえば、この「マツカサウミウシ属の一種」はインターネット上にも図鑑にも情報がないんです。そういうウミウシにある日突然名前がついたりするんですよ。ポケモンみたいに図鑑にあるものをターゲットにするのも、まだ誰も見たことがない宝探しをするのも楽しんでみてほしいですね。

不明種(世界のウミウシ木元さん)
マツカサウミウシ属の不明種(大瀬崎)

――1ダイブで複数の図鑑未登録種に出会えるとかあります?

全然ありますよ!学名がついているウミウシなんてまだごくごく一部ですから。

――すごい世界ですね!木元さんの活力のためにも、新顔のウミウシを探さなきゃ(笑)!

「世界のウミウシ」の未来も心配ですが(笑)、日本の現状もなんとかできないかなとも思うんです。小野さん、もっと遡ると日本のウミウシ研究の祖である馬場菊太郎先生の次につながる人がまだまだ育ってきていないんじゃないかと。ウミウシは未発見の種、日本未登録の種もまだまだ存在しているうえに、本格的なウミウシ研究はまだ始まったばかりでちょっと混沌としているんです。ウミウシとひとことで言うけれど、あまりにも広くて複雑で。

そういう意味で、小野さんが図鑑『新版 ウミウシ』を出版してくださったのは本当にありがたいです。ウミウシの同定をしたい人にウミウシの世界的権威ゴスライナーの著作を勧めても「英語はちょっと…」という反応も多くて(笑)。今後は『新版 ウミウシ』を紹介できますからね。

――確かに。図鑑は信頼が第一ですし、小野さんの著作は安心して読めますね。

今、スタンダードになっているウミウシの探し方を発案したのも小野さんですしね。

――ウミウシ探しの方法は図鑑にかなり詳しく載っていましたね。あれを見ると、自分でもウミウシを見つけてみたくなります!木元さんの今までのウミウシダイビングの中でおすすめはどこですか?

国内なら西伊豆のちびすけ、沖縄のオーシャンブルーをはじめ、三浦半島のウミウシハンターズ、その他にもウミウシガイドをしてくれるダイブサービスがあるのでそこを訪ねてみるのがおすすめです。海外だと、バリ島トランベンが最高でした。

――そういえば、以前、研究活動で行かれていましたよね?

ロシアの研究者たちがトランベンのダイビングショップと一緒にウミウシ研究するワークショップがあって参加しました。7日間で27本潜って自分は100種以上見つけましたね。

未記載種(世界のウミウシ木元さん)
ワークショップで見つけた未記載種

それを研究者たちに渡して、研究者たちは朝から晩まで同定をするという。ウミウシの話もたくさんできて、研究者サーシャさん(Alexander Martynov)と仲良くなれたのもよかったです。今まで2回参加しています。2回目はウミウシハンターズ池田さん、オーシャンブルー今川さんと一緒に行きました。

でも、トランベンはファンダイビングでも何度か行っているんです。ノーブルバリというダイビングショップのガイドがすごくて。1ダイビング延々ウミウシを1日5本とか。写真に撮れないくらいすごく小さいウミウシもどんどん見つけるし、日本語ペラペラだし。

ドーナツマツカサウミウシ(世界のウミウシ木元さん)
トランベンまで見に行ったドーナツマツカサウミウシ

――それは気になりますね!

ウミウシの名前をめぐる物語も興味深い

――ウミウシも、ウミウシダイビングもとても面白そうです。

ウミウシそのものの存在ももちろん面白いですが、名前にまつわる背景に注目する楽しみ方もあります。

――名前ですか?

学名のあるウミウシはごくごく一部という話をしましたけど、それは同定の難しさに起因しているんです。なにしろ論文に水中写真が使われるようになったのはここ最近ですから。以前は写実的だったり、浮世絵のようなクセのあるイラストしかありませんでした。さらに、古い論文というのはラテン語やドイツ語です。

日本ではまだまだ未記載種の可能性がある、という背景について、たとえば「ハゴロモウミウシ」というウミウシがいるんです。

ハゴロモウミウシ(世界のウミウシ木元さん)
ハゴロモウミウシ

ハゴロモウミウシ

北陸に行けばゴロゴロいます。学名もAncula gibbosaとついているじゃないですか。でも、この学名は地中海で記載されている学名なんです。そんな種が日本海にいると思います?見た目もよく似ているけど、ちょっと違う。

Ancula gibbosa

――これは難しいですね…!?同種か、別種か?

まだ和名もない時代、馬場菊太郎はこのウミウシを見つけました。さて、このウミウシはなんだろうと世界の論文を読むわけです。当時はインターネットがないので手紙でやりとりしていた頃、もちろん写真もありません。

すると、Ancula gibbosaによく似ていることがわかりました。解剖などもして、これだということで論文を書きます。和名も付けましょうとなってこう書かれます。

ハゴロモウミウシ Ancula gibbosa (Risso, 1818)

「日本でもAncula gibbosaが見つかったよ」という論文です。ところが、現在は写真もあるし、DNAも照合できるようになりました。DNAで比較すると…さてどうなるでしょうね?これは未記載種?同種?まだ誰もやっていないのでわかりません。

――ええー!なんだこの世界ー!そんなに未知ですか…磯とかでも出会える身近な生き物なのに…!?

馬場さんは日本中でたくさんのウミウシを学名記載しましたが、もう確かめようもない種もいますし、世界中にいることになっちゃっている種もいます。日本で採集して調べ直し、世界で発見されたウミウシと異なると証明できれば世界中の未記載種がもっと増えるわけです。

――すごいですね、本当に。

もうひとつ、名前をめぐる話でいうと、古い書物に載っているウミウシなんかが面白かったりします。世界のウミウシブログでも、たとえば「サキシマミノウミウシの変遷」についてまとめているので、もしよかったら読んでみてください。

――すごくディープな記事!木元さんのウミウシへの情熱が垣間見えます。木元さん、もしウミウシに出会っていなかったらダイビングをやめてしまっていますか?

どうでしょうね。普通にマンタやジンベエザメの先にクジラを見たりシャチを見たりしていたかもしれませんよ(笑)。

世界中のウミウシにもっと会いたい!

――今後やってみたいことについて教えて下さい。

今までに見たウミウシは1100種類くらいなんですが、他にもアメリカ西海岸、台湾、タイ、地中海、カリブ海、アフリカなどなど、世界各地に行って実際自分の目で見てみたいです。FFみたいなウミウシとかも実物はどうなんだろうと。温暖化の影響もあって、日本でも世界でも見られるウミウシの数は減ってきているので、そう猶予もなくて。

――なんとか生き残ってくれるといいですね。さて、では最後に、ダイビングを迷っている方、そしてダイバーだけどウミウシダイビング未体験という方にもメッセージをお願いします!

ダイビングを迷っている人は、とりあえずやってみましょう。合わなければやめればいいだけなので、難しく考える必要はないです。都市から海まで車で連れて行ってくれるお店もありますし、どこのお店がいいかわからない人は周りのダイビングをやっている人に聞くのがおすすめです。全部パッケージになっているところを利用しても大丈夫。やってみたら、できれば50本ぐらい潜ると世界が変わると思いますが、そこは人それぞれです。泳ぐことが嫌いでもなんら問題ない。その人に合ったダイビングがありますので、好きなようにやりましょう。

ウミウシ沼に行きたい人は、ぜひウミウシダイビングを経験してみてください。カメラはTGシリーズで十分。「世界のウミウシ」にいろんなショップの人が投稿していますので、参考にしてください。

――ありがとうございました!

濡れるのも泳ぐのも嫌いな木元さん。変わらないまま、そのままの自分でも楽しみ方が見つかるのがダイビングの魅力のひとつですね!そして、ウミウシは思った以上に宝石探しでした。ウミウシダイビング絶対やりたい!

ウミウシのディープな世界をもうちょっとかじりたい方は、「世界のウミウシ」で公開している図鑑『新版 ウミウシ』インタビューもぜひ読んでみてください!図鑑もおすすめ。下手な旅行ガイドブックより、旅に出たくなること請け合いです。